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古上織蛍の日々の泡沫(うたかた)

歴史考察(戦国時代・三国志・関ヶ原合戦・石田三成等)、書評や、        日々思いついたことをつれづれに書きます。

【大河ドラマ 軍師官兵衛】田中圭「田中圭のことを嫌いになっても、石田三成のことは嫌いにならないでください!」

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☆戦国時代 考察等(考察・関ヶ原の合戦、大河ドラマ感想、石田三成、その他) 目次に戻る 

☆前回の記事【大河ドラマ 軍師官兵衛】石田三成「NHK!、わしを陥れるためにここまでやるか!」

 

 大河ドラマ軍師官兵衛」の打ち上げで、石田三成役をやった田中圭さんが、「田中圭のことを嫌いになっても、石田三成のことは嫌いにならないでください!」と言って周りをドン引きさせたという記事がありましたが、いや、あのドラマ見たらそりゃ知らない人は石田三成嫌いになりますわ。本当に脚本家に悪意があるとしか思えませんな・・・。 

 さて、前回書こうと思って力尽きた第42話「太閤の野望」について書きます。(そうこうしているうちにもう第43話終わっちゃったよ。まあ、もう見てないけど。)これもひどい話です。 

 第42回は朝鮮出兵の話です。黒田官兵衛は、朝鮮出兵は無謀だとして、なんとか和平に持ち込もうと努力します・・・。 

 って何が酷いって、まず別に史実として黒田官兵衛は積極的に出兵に反対していたり、和平に動いていたりとかいう記述はないんですよ。まあ、病と称して一度帰国するなど、やる気がなさそうな感じは確かにしますが。(追記:「病と称して」ではなく、本当に病だったようですね。官兵衛さん、すいません。)(すいません、官兵衛についてはそこまで深く調べてないので、もし「そういう史実があるぞ!」という方がいましたら教えてください。) 

 でも、このドラマでの黒田官兵衛は秀吉の暴挙である朝鮮出兵をなんとかとどめて和平をはかろうという設定です。そこで、脚本家が「和平のために動く官兵衛」というのを創作するために、別の人物の行動をトレースして黒田官兵衛を行動させているのですね。 

 まあ、誰か別人物の手柄を、主人公のものに変えちゃうというのは最近の大河ドラマでよくある手法(最近はマイナーな人物を主人公にするので、そうしないと1年持たない)なのでそこら辺は普通ならご愛嬌という所なんですが、今回のはちょっとひどい。(黒田官兵衛がマイナーと言ってるわけじゃないですよ、念のため) 

 まず、官兵衛によって今回トレースされた人物は、何とあの石田三成なのです。朝鮮出兵に常々反対していたのも石田三成(『看羊録』によると「石田治部は、つねづね、『六十六州で充分である。どうしてわざわざ、異国でせっぱつまった兵を用いなくてはならないのか』と言っていた。」とあります)。朝鮮に渡った時に戦地の惨状を見て、秀吉につぶさに報告して朝鮮出兵の無謀さを説いた書状を送ったのも石田三成ら奉行衆、伸び切ってしまった戦線を収拾して漢城への撤退を諸将に説いたのも石田三成ら奉行衆、小西行長と共に和睦交渉を進めたのも石田三成(というかこの偽りの和睦交渉は非常に評判が悪くて、何故にわざわざ悪評高い他人の行動を官兵衛がした事にしたのか全く不明)(*)。

 ちなみに、秀吉も石田三成らの書状で漢城の兵糧枯渇を知らされており、結局秀吉は漢城からの撤退を認めています。だから、漢城撤退したからといって、石田三成ら奉行衆が秀吉から咎めを受けることもありませんし、石田三成らが保身をはかって黒田官兵衛を陥れる必要もありませんし、もちろん実際にはそんな史実はありません。 

 要はこの大河ドラマ黒田官兵衛石田三成の行動パターンをパクっている訳です。いくらなんでも、こりゃないんじゃないの。よりによって、この大河ドラマでは最悪の悪役設定されている石田三成の行動を主人公になぞらせているんですよ。いくら大河ドラマがフィクションでも、ここまでの歪曲は酷過ぎますよ。 

 これはあれですよ。例えば幕末で水戸浪士が主人公で、井伊直弼が悪役のドラマ作ったとしてですよ、井伊直弼が教条的な攘夷派で、水戸浪士が開国派で、暴走した攘夷派の井伊直弼安政の大獄で開国派の弾圧を行って、水戸浪士が「無謀な攘夷は日本を滅ぼす!」とか言って桜田門外の変を起こして井伊直弼を暗殺する、ってぐらい滅茶苦茶な筋書きですよ。 

 上にも書きましたが今回の黒田官兵衛が帰国してみたら、石田三成に嵌められて無断帰国だという扱いにされたとのいうのは、脚本家の創作です。つーか、これじゃ官兵衛バカ過ぎだろ。本当にこの脚本家官兵衛の事嫌いなんだなあ。 

 現実には、秀吉は漢城からの撤退は認めたものの、代わりに釜山・熊川付近に拠点を確保するため、晋州城の攻略を至上命令としていました。これに対し、沿岸部での城塞構築と晋州城の攻略のいずれを優先すべきかで、現地では判断が分かれており官兵衛はこの調整を行うため名護屋に戻ろうとします。官兵衛は名護屋に到着しますが、こうした行動は軍令違反ととられてしまい、秀吉の不興をかった官兵衛は対面すら許されずに朝鮮に追い返されてしまうことになります。ということで、官兵衛が秀吉の不興を買ったのは石田三成とは何の関係もありません。 

 また、浅野長吉と黒田官兵衛が碁を楽しんでいた時に、三成が訪ねたにもかかわらず、碁を止めず、そのことに怒った三成が秀吉に讒言したという逸話が「黒田家譜」にあるようですが、(大河ドラマでも話に出ていましたが)歴史学者の中野等氏は「後年石田三成等を貶めるために創作されたものに過ぎず、史実として採用することはできない」としています。まあこれは「逸話」なので、ドラマでやってもおかしくないのですけど、つまらん逸話だなと思います。

※上記の件については、以下で詳細を書きました。↓

koueorihotaru.hatenadiary.com

 

(*)私見ですけど、この「偽りの和睦交渉」って、公式には秀吉は「知らなかった」ことになってますけど、本当は知っていた、というより秀吉主導の茶番劇だったんじゃないかな、と思います。証拠はありませんが。なぜかというと、本当に秀吉を騙していたのだとしたら、小西行長石田三成も普通に斬首されても仕方ない位の大罪です。(現に明側の使節沈惟敬は明政府によって処刑されています。)なのに、何の咎めも処分もありません。よく分からんことで周りの人物を粛清しまくっている暴君秀吉が、明らかな罪に対して何の処分もしないというのは実に不可解です。

 おそらく、朝鮮出兵が思った通りにはうまく行かなかったことを秀吉は理解していたものの、批判を黙殺し、多大な兵力を諸大名に負担させて出兵したにも関わらず、何の成果もなく失敗でしたでは面子丸つぶれどころではなく、秀吉政権そのものが崩壊しかねないと考えたのでしょう。そのため秀吉は、実際には敗北に等しくても、何とか形式的にでも「勝利」したという外見にしたかったのだと思います。偽りの講和でも諸大名を騙して納得させられればそれでよいのです。ただし、結局交渉がうまくいかなかった時は、「自分(秀吉)は知らなかった」という保険が必要です。このため、このような茶番劇を仕組んだものと思われます。

 はじめの講和の過大な要求も秀吉がよくやるブラフです。このはったりは国内では通用しても外国相手では通用しないのですが。

 結局、この偽りの和睦交渉は失敗し、慶長の役の泥沼へ向かいます。

 

(追記:第46話を見ましたので感想を書きました。よろしければご覧ください。)

【大河ドラマ 軍師官兵衛】第46話「家康動く」感想 - 古上織蛍の日々の泡沫(うたかた)

 

参考文献 

姜沆(訳注 朴鐘鳴)『ワイド版東洋文庫440 看羊録』平凡社

中野等『戦争の日本史16 文禄・慶長の役吉川弘文館

中野等「黒田官兵衛朝鮮出兵」(小和田哲男監修黒田官兵衛豊臣秀吉の天下取りを支えた軍師』(宮帯出版社)所収)

中井俊一郎『石田三成からの手紙』サンライズ出版