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古上織蛍の日々の泡沫(うたかた)

歴史考察(戦国時代・三国志・関ヶ原合戦・石田三成等)、書評や、        日々思いついたことをつれづれに書きます。

マタハラ裁判最高裁の判決について

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 2014年10月23日に最高裁で判決された、マタハラ裁判最高裁の判決文の概要についてまとめてみました。簡単にしようと努力したのですが、法律の文章は下手に省略すると意味が変わってきてしまう可能性があるのでつらいところです・・・・・・。

(私は法律の専門家ではありませんが、全企業の人事に影響を与える判決かと思いますので、素人なりにまとめてみました。誤り等の指摘があればお知らせ願います。文中の下線部・太字等は筆者によるものです。)

全文は以下です。↓

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/577/084577_hanrei.pdf 

 あと、この「マタハラ裁判」て言葉、どうにかならんのですかね。この呼称が一般的なのでタイトルもそうしましたが、何でも「○○ハラ」と言うのは、その問題の深刻さを薄めてしまうような気がします。本裁判は内容的に見ると「妊娠・出産降格差別裁判」が正しいのではないでしょうか。

 

1 裁判の争点

  本件の上告人は,理学療法士の方です。妊娠当時副主任でした。被上告人は,原告が勤務している病院(の正確には消費生活協同組合ですが)です。(普通原告、被告と書くのかもしれませんが、最高裁の判決ですので、判決文に合わせて以下も「上告人」「被上告人」とします。) 

 裁判の争点は、上告人が,労働基準法65条3項に基づく「妊娠中の軽易な業務への転換」に際して副主任を免ぜられ,育児休業の終了後も副主任に任ぜられなかったことから,副主任を免じた措置は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下「均等法」という。)9条3項に違反する無効なものである等と主張して,管理職(副主任)手当の支払及び債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。

 

2 法律はどうなっているか 

 まず、「均等法」9条3項は,「女性労働者につき,妊娠,出産,産前休業の請求,産前産後の休業その他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」旨を定めています。

 そして,同項の規定を受けて,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律施行規則2条の2第6号は,上記の「妊娠又は出産に関する事由」として,労働基準法65条3項の規定により他の軽易な業務に転換したこと(以下「軽易業務への転換」という。)等を規定しています。 

 このため,女性労働者につき,妊娠,出産,産前休業の請求,産前産後の休業又は軽易業務への転換等を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは,均等法に違反するものとして違法であり,無効なのです。

 そして、一般に「降格」は労働者に対する「不利益な取扱い」にあたります。 

 つまり、女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として「均等法」の禁止する不利益取扱いに当たり違法で、無効です。 

 これは改正「均等法」が施行されてからそのような規定になっている訳ですから、普通に考えれば、法律の通り地裁の段階で「病院の降格措置は違法で無効、地裁で訴えた女性が勝訴、訴えられた病院側が敗訴」で終わりの話です。なぜ、地裁、高裁で女性側が敗訴し、判断が最高裁まで長引いたのかという話になります。

 

3 高裁までの判断

 女性の訴えに対して、高裁までの判決は,以下の通り判断して,上告人の請求を棄却しました。 

「本件措置は,上告人の同意を得た上で,被上告人の人事配置上の必要性に基づい

てその裁量権の範囲内で行われたものであり,上告人の妊娠に伴う軽易な業務への

転換請求のみをもって,その裁量権の範囲を逸脱して均等法9条3項の禁止する取

扱いがされたものではないから,同項に違反する無効なものであるということはで

きない。」 

 つまり、上告人が降格に同意したのだから、違法な「不利益な取扱い」には当たらないという判決です。

 最高裁では、その上告人の「同意」の内容が妥当といえるかが争点となりました。最高裁の判決文を読むと、実際には上告人の「同意」は「事後同意」といってよく、また降格の内容の説明が全くされず、とても「同意」といえるものではなかった事が明らかにされています。

 

4 最高裁の判断 

(1)降格させてもよい2つの例外

 ① 「説明を十分に受けた上での本人の自由意思による同意」又は

 ② 「事業主が降格をさせずに軽易業務への転換をさせることに支障がある特段の事情」 

 最高裁判決も2で示した通り女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として「均等法」の禁止する不利益取扱いに当たり違法で、無効であるとしますが、2つの例外があるとします。

 

第1の例外

「当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」

(「上記の承諾に係る合理的な理由に関しては,上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって,上記措置の前後における職務内容の実質,業務上の負担の内容や程度,労働条件の内容等を勘案し,当該労働者が上記措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得たか否かという観点から,その存否を判断すべきものと解される。」) 

 つまり、事業主が降格についての有利な影響、不利な影響の内容を十分に説明した上で、労働者が自由な意思で降格に同意するなら、降格させても違法ではないという事です。 

 

第2の例外

事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するとき」

(「上記の業務上の必要性の有無及びその内容や程度の評価に当たって,当該労働者の転換後の業務の性質や内容,転換後の職場の組織や業務態勢及び

人員配置の状況,当該労働者の知識や経験等を勘案するとともに,上記の有利又は

不利な影響の内容や程度の評価に当たって,上記措置に係る経緯や当該労働者の意

向等をも勘案して,その存否を判断すべきものと解される。」) 

 つまり、事業主が降格をさせずに軽易業務への転換をさせることに支障があるような特段の事情がある場合なら、降格させても違法ではないという事です。

 

(2)今回の件は「例外」にあたるか 

 これを本件についてみると、最高裁は以下の点を列挙して、「本件の『降格』は上記の『例外』には当たらず、原則通り『不利益取り扱い』にあたり違法で無効であるとします。 

 ① 上告人は,妊娠中の軽易業務への転換としてB(訪問リハビリ業務)から(病院の)リハビリ科への異動したことにより管理職から非管理職に降格されましたが、「上記異動により患者の自宅への訪問を要しなくなったものの,上記異動の前後におけるリハビリ業務自体の負担の異同は明らかではない上,リハビリ科の主任又は副主任の管理職としての職務内容の実質が判然としないこと等からすれば,副主任を免ぜられたこと自体によって上告人における業務上の負担の軽減が図られたか否か及びその内容や程度は明らかではなく,上告人が軽易業務への転換及び本件措置により受けた有利な影響の内容や程度が明らかにされているということはできない。」としています。 

 つまり、「軽易業務」といっても、ことさら降格しなければ対応できないような「軽易な業務」ではなく、「(病院)リハビリ科」という病院の本来業務を異動後もしているだけな訳です。

 普通に病院の本来業務でやっているような業務への配置転換は「業務上の負担の軽減が図られたか否か及びその内容や程度は明らかではな」いため、降格をさせずに軽易業務への転換をさせることに支障があるような「特段の事情」とは到底いえません。

 このため、本件は例外2には該当しません。

 

 ② 「そして,上告人は,前記2(7)のとおり,育児休業を終えて職場復帰した後も,本件措置後間もなく副主任に昇進した他の職員の下で,副主任に復帰することがで

きずに非管理職の職員としての勤務を余儀なくされ続けているのであって,このよ

うな一連の経緯に鑑みると,本件措置による降格は,軽易業務への転換期間中の一

時的な措置ではなく,上記期間の経過後も副主任への復帰を予定していない措置と

してされたものとみるのが相当であるといわざるを得ない。

 しかるところ,上告人は,被上告人からリハビリ科の科長等を通じて副主任を免

ずる旨を伝えられた際に,育児休業からの職場復帰時に副主任に復帰することの可

否等について説明を受けた形跡は記録上うかがわれず,さらに,職場復帰に関する

希望聴取の際には職場復帰後も副主任に任ぜられないことを知らされ,これを不服

として強く抗議し,その後に本訴の提起に至っているものである。」 

 つまり、上告人は育休を終えて職場復帰した後も、降格から復帰せず降格されたまま、という一時的ではなく継続的な措置を受けています。

 このような重大な措置を受けたにも関わらず、「育児休業からの職場復帰時に副主任に復帰することの可否等について説明を受けた」形跡はなく、「事業主が降格についての有利な影響、不利な影響の内容を十分に説明」した上で本人が降格に同意しているとは到底いえない訳です。 

 また、そもそも上告人が軽易業務を申し出、認められて軽易業務についた(これが3月1日)後の3月中旬頃に,被上告人は,本件病院の事務長を通じて,上告人に対し,手続上の過誤によりの異動の際に副主任を免ずる旨の辞令を発することを失念していたと説明し,その後,リハビリ科の科長を通じて,上告人に再度その旨を説明して,副主任を免ずることについてその時点では渋々ながらも上告人の了解を得ています。 

 つまり、上告人が軽易業務についた時点では、特に事前に降格の説明はなく、軽易業務についてしばらくしてから、事後的に軽易業務につくと降格になることを求められてしぶしぶ同意した訳です。この状況からしても「事業主が降格についての有利な影響、不利な影響の内容を十分に説明」した上で本人が降格に同意しているとはとてもではないがいえない訳です。

 上記の件を考えると、本件は例外1には該当しません。 

 

 ここまで述べたように本案件は例外1、2どちらにも該当しないため原則通り、この降格は、「均等法」の禁止する「不利益取扱い」に当たり違法で、無効という判決になりました。 

 ただ、これ差し戻し判決なので、また高裁で裁判が続くのですね。(最高裁の判決を高裁が覆すケースはほとんどないですが。)何とも日本の裁判は長いですね・・・・・。

 

5 裁判長の補足意見 

 判決書の最後に裁判長の補足意見がありますが、これは「育児休業から復帰しても降格されたままだったこと」が「育児・介護休業法」違反といえるかについての意見です。最高裁の請求の対象から外されました(「均等法」違反が判断されれば、「育児・介護休業法」違反の問題は、そちらに吸収されてしまうので請求原因から外されたということなのかな?)ので、判決の中に入っていませんが、裁判長の補足意見という方で意見が述べられています。

 

 抜粋すると、以下の通りになります。

 ①「育児・介護旧法」の目的及び10条「そのため,労働者が育児休業申出をし,又は育児休業をしたことを理由として,解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」の規定から解すると、育児休業から復帰後の配置等が降格に該当し不利益な取扱いというべきか否かの判断に当たっては,妊娠中の軽易業務への転換後の職位等との比較で行うものではなく,軽易業務への転換前の職位等との比較で行うべき

 

 ②  「 育児休業から復帰後の配置等が,円滑な業務運営や人員の適正配置などの業務上の必要性に基づく場合であって,その必要性の内容や程度が育児・介護休業法10条の趣旨及び目的に実質的に反しないと認められる特段の事情が存在するときは,同条の禁止する不利益な取扱いに当たらないものと解する余地があることは一般論としては否定されない。」

 ③「本件においては,上告人が職場復帰を前提として育児休業をとったことは明らかであったのであるから,復帰後にどのような配置を行うかあらかじめ定めて上告人にも明示した上,他の労働者の雇用管理もそのことを前提に行うべきであったと考えられるところ,法廷意見に述べるとおり育児休業取得前に上告人に復帰後の配置等について適切な説明が行われたとは認められず,しかも本件措置後間もなく上告人より後輩の理学療法士を上告人が軽易業務への転換前に就任していた副主任に発令,配置し,専らそのゆえに上告人に育児休業から復帰後も副主任の発令が行われなかったというのであるから,これらは上記に述べた特段の事情がなかったと認める方向に大きく働く要素であるといわざるを得ないであろう。