古上織蛍の日々の泡沫(うたかた)

歴史考察(戦国時代・三国志・関ヶ原合戦・石田三成等)、書評や、        日々思いついたことをつれづれに書きます。

【大河ドラマ 軍師官兵衛】第46話「家康動く」感想

☆ 総目次に戻る☆ 

☆戦国時代 考察等(考察・関ヶ原の合戦、大河ドラマ感想、石田三成、その他) 目次に戻る 

関連エントリー

【大河ドラマ 軍師官兵衛】石田三成「NHK!、わしを陥れるためにここまでやるか!」

【大河ドラマ 軍師官兵衛】田中圭「田中圭のことを嫌いになっても、石田三成のことは嫌いにならないでください!」

 

 大河ドラマ軍師官兵衛」46話「家康動く」を見ました。見た感想など述べてみます。

 

1.やっと朝鮮出兵が終わり、日本に引き上げた黒田長政が官兵衛(今は如水ですけど以下も「官兵衛」にします。)に「三成が博多へ迎えにきておりましたが、朝鮮で苦難の戦を費やした我らに何の恩賞もなく、どの面下げて来られたのやら?あやつだけは断じて許せません」とか言っています。

 

→えーと、朝鮮出兵は実質負け戦(一片の土地すら手に入れてない)ですから、恩賞がなくて当たり前です。取った土地がないのに「苦労したから恩賞くれ」と言うなら、豊臣家の直轄領や蔵入地を削って出すか、豊臣家の財産から金銀を割いて出さなければなりませんが、いつから石田三成は独断で勝手に豊臣領や豊臣家の財産を削って恩賞を与えられる程、偉くなったのでしょう?何事も協議して決めなければいけない五大老五奉行制はどこへ行ってしまったのでしょうか?(帰国したばかりで、そんなの知らん?三成の独断で決められないことぐらいはわかるでしょう。)

 そんなことも分からないほど長政はバカだという描写でしょうか?このドラマ見ていると確かにそういう演出のような気がします。

 

2.黒田長政福島正則加藤清正小西行長の間で、朝鮮を撤退する際にひと悶着ありました。その事で小西行長が、長政と加藤清正を訴えました。

 

→上記のストーリーは、おそらくいろいろな話をつなげては分解してデタラメな話を創作しています。

 

多分、

①   文禄の役の時に小西行長らが、秀吉に加藤清正が勝手な行動をしていると訴えた。(そのため加藤清正が秀吉の怒りを買い、謹慎に追い込まれたという逸話がありますが、近年の研究(熊本新聞日日新聞社編『加藤清正の生涯 古文書が語る実像』等)では謹慎となった史実はないようです。)

 

②   慶長の役のときに明・朝鮮連合軍に攻められ、加藤清正蔚山城に籠城します。清正を救援するため、毛利秀元鍋島直茂黒田長政蜂須賀家政らの軍が救援に向かい、明・朝鮮連合軍を打ち破り、追撃しました。この時の追撃戦(追記:どうも、追撃戦ではなく、その前日(?)の戦いの先手当番だったにも関わらず二人は戦わなかったようです。あと追撃戦そのものが無かったように誤解している書籍もありましたが、追撃戦はありました。)に黒田長政蜂須賀家政が参加しなかったことを軍目付の福原長蕘(石田三成の妹婿)らが秀吉に報告し、長政・家政は秀吉から叱責を受けます。

 この事で長政、家政は三成を恨みに思い、後の三成に対する七将襲撃事件の原因のひとつに発展にします。(当時の常識からいえば、「身内の不始末(ではないのですが・・・)は自分の不始末」ですので、妹婿の行いは「石田三成がやった事と同じ」と思われても仕方ありません。)

③   福島正則慶長の役には出兵していないので、この話とは無関係です。

 この3つの話を適当に混ぜ合わせてエピソードを創作しているので最終的に何がなんだか訳のわからない話になっています。

 

(「文禄・慶長の役の秀吉の論功行賞」は、関ヶ原の戦いにおける秀吉家臣団の分裂の原因に繋がる重要な論点だと思われますので、後日エントリーで詳細に考察したいと思います。)

(追記)(以下のエントリーでまとめました。↓)

koueorihotaru.hatenadiary.com

 

3.北政所(おね)が、「この日本国に泰平の世が続くなら徳川殿でも前田殿でも誰でも良い。もっともふさわしき方が天下人となれば良い」と官兵衛に言います。

 

→別に北政所は黒田殿とか言っていませんよ、官兵衛殿・・・。なぜか、やる気になってしまう官兵衛って・・・。

 まあ、それはおいといて、従来よくあるドラマでは「北政所=家康派=東軍派」という思い込みが強固にあって、それに比べると今回の大河ドラマ北政所は中立的な立場らしく、従来に比べたらだいぶ「マシ」になったな、と思います。まあ、重要キャラクターとして西軍の小西行長の母親マグダレナを出しているんですから、おねが家康派だとドラマが崩壊しちゃいますよね。(私は北政所=西軍派だと思うのですが、詳細を語ると長くなりますので、これも後日のエントリーで書きます。)

 

(追記)※ 以下のエントリーでまとめました。↓

koueorihotaru.hatenadiary.com

 

 昔のドラマの「北政所=家康派=東軍派」って一体何だったのでしょうね。戦国時代の人間にとっては「家の存続」が男女問わず至上命題で、だから前田利家のまつ夫人も賢夫人として讃えられるわけです。仮に北政所が家康派だったら、北政所は将来豊臣家を滅ぼす張本人徳川家康に騙されて肩入れする馬鹿な女性ということになってしまいます。「北政所=家康派=東軍派」という方は、それを分かっていて北政所を貶めるためにアピールしていたのですかね。本当に北政所に失礼です。

 

 しかし、その前の「されど豊臣の天下は秀吉一代限りとわたくしは思っています」というセリフはどうなんでしょうか。随分投げやりです。いや、別の大人が天下人になって天下泰平にしてくれればいい、秀頼は天下人にならなくても、豊臣家を守れればそれでよい、というのは他人の語る一般論としてはいいのですよ。

 しかし、次代の天下人にとっては、豊臣家は巨大すぎて邪魔で脅威な訳ですから普通に考えて自分の政権を守るために滅ぼそうとする訳です。(実際そうなりました。)そうならないためには「託孤与命」できる「君子人」を探すしかない訳です。(託孤与命については「諸葛孔明は忠臣か?」~あるいは託孤寄命とは。参照)

 賢婦人であるはずの北政所がそこら辺まで想像できない訳がないのですね。

 そんなことを考えるのも面倒臭くなったという描写なのかもしれませんけど、それもどうなんでしょうね。やはり史実の北政所に失礼な気がします。

 

4.七将の襲撃を受けて石田三成が逃げ込んだところは徳川家康の屋敷。

 

→これ、いつもドラマでやるんですけど、史実では否定されています。三成が逃げたのは伏見城内の治部少丸にある自分の屋敷です。確かに、今まで敵とみなされた家康の屋敷に逃げこんで「あえて敵の懐に飛び込む」というのは話としては面白いといえば面白いのですが。

(*追記 どうも、もう一度確認してみると、このドラマでは、三成は「家康のいる伏見城」に逃げ込んだ(だから家康を頼ったのだ)、という話にしているみたいですね。家康は史実でも確かにこの時伏見にいましたけど、いたのは伏見城の本丸とか西丸ではなくて、(伏見城外の)向島の自宅なんですね。だから、「家康の元に逃げ込んだ」というストーリーにしたいなら、やはり「徳川家康の屋敷」に逃げ込んだという話にならないとおかしい訳です。家康が伏見城西丸に移ったのは、三成を佐和山に蟄居させた後です。

 たぶん、中途半端に史実を意識して、それでも三成が「家康を頼った」というイメージを作りたいがゆえの改変のような気がします。)

 

 というか、この創作話って三成カッコいいですか?いつも不思議に思うんですよね。(一説には三成の豪胆さを示す逸話のように語られるので・・・。)

 

 実は、私は学生の昔の頃から最近まで、ずっとしばらくの間、石田三成はあまり好きではなかったのですよ。私の最初の石田三成のイメージは司馬遼太郎の『関ヶ原』で、読後の三成の印象は最悪でした。老獪な家康の手玉にとられる、ただのアホ、という感じですね。(後で、この作品を「三成再評価の書だ」と評している人もそれなりにいるのを知って、びっくりでした。どこが?と思います。司馬遼太郎氏が本書であからさまに三成を馬鹿にしているのは丸わかりです。)

 

 特に最悪だったのは、この七将襲撃で、家康の屋敷に逃げ込んで、これが何か妙策だと三成が思っているシーンです。敵に助けてもらうというのは、恩を着せられて、どうとでもされてしまうということ(実際この後、蟄居せざるを得なくなります)ですし、周りの人達も「敵に助けを求める」というのは「全面降伏」とみなしてしまいますので、周囲(傍観者も含め)の信頼も地に落ちてしまうでしょう。妙策どころか最悪の手段です。(『関ヶ原』内での司馬遼太郎氏の評価も否定的だったと思います。)

 

 私の、石田三成の悪いイメージが変わりだしたのは、このエピソードがフィクションだった、と知った頃からです。それぐらい(悪い意味で)強烈な創作エピソードでした。

 

 皆様は、この三成の創作エピソードについてどう思われますか?(創作といっても司馬遼太郎氏のオリジナルではなく、明治時代頃からあるみたいですが。)肯定的な意見が多いのか、否定的な意見が多いのか興味がありますので、是非ご意見をお願いします。

 

*官兵衛が天下狙うとか、どうでもいい(史実でも、フィクションでも絶対無理)なのでスルーします。(あえて言うなら、天下取りするなら事前に息子と打ち合わせぐらいしたほうがいいよ、官兵衛殿・・・・。)

*47話の感想はこちらです。↓

【大河ドラマ 軍師官兵衛】第47回「如水謀る」 感想 - 古上織蛍の日々の泡沫(うたかた)