古上織蛍の日々の泡沫(うたかた)

歴史考察(戦国時代・三国志・関ヶ原合戦・石田三成等)、書評や、        日々思いついたことをつれづれに書きます。

大河ドラマ 『真田丸』 第24話 「滅亡」 感想

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※前回の感想です。↓

koueorihotaru.hatenadiary.com

 

 今回も、酷い回でした・・・・・・、と書こうと思ったのですが、よくよく考えてみると大河ドラマの水準なんて元々こんなものですし、何か自分で勝手に期待して、勝手にがっかりしているだけなような気もしてきました。

 

 これ以上このドラマの感想を書く意味があるのか、いちいち史実と違う所を指摘しても仕方ないのではないかという気もするのですが、このドラマが史実だと誤解する視聴者が、もしかして少しはいるかもしれないのが嫌なので、今回もつらつらと書いていこうと思いました。(このドラマを史実だと思う方が、このブログを覗くことはないような気もしますが。)

 

 前回と今回で史実と違うところを以下に列挙します。というか、今回のドラマでフィクションじゃない描写があるのでしょうか?

 

1.忍城攻めの描写がすべてデタラメ。特に、三成は忍城攻めで諸将がやる気が無くすのでまず力攻めした方が良いと水攻めに反対する書状を送っているし、そもそも水攻めで「4日で落とす」とかいうこと自体が有り得ないセリフ。三成は、これまでも秀吉の戦に何度も従軍しているので、まるでこれがはじめての戦のような描写もおかしい。

 

 なんか、もうここに尽きるのですが、三成に限らずすべての登場人物の言動が「ここが史実と違う」以前に、根本的に史実を知っていれば「有り得ない」言動、人物造形なんですね。脚本家が史料の読み込みがまったくできていないことが分かります。

 

忍城水攻めの実相については下記をご覧ください。↓

koueorihotaru.hatenadiary.com

 

2.もちろん信繫が北条との和平交渉のため使者となるのはフィクションです。今週、実は、黒田官兵衛がギリギリサプライズで登場するのかと私は思っていました。

 今回、時代考証担当の先生が色々ツイッターでフォローされていました。まとめると

(1)信繫が北条への和平交渉のための裏の使者になる可能性は「なくはない。」

(2)信繫が北条への裏の使者黒田官兵衛が北条への表の使者

という感じでしょうか。

 

 時代考証担当の先生の著書は拝読しており、新たな知見を得られて感謝していますので、時代考証担当の先生にこのような苦しい説明をさせてしまう、脚本家の方はいかがなものかと思います。

 

(1)信繫が北条への和平交渉のための裏の使者になる可能性は「なくはない」といっても、それは「近藤勇坂本龍馬は、同時期に江戸にいたんだから知り合いであってもおかしくないだろ」くらいの可能性にすぎません。信繫が小田原城に潜入したとか開城交渉をしたとかいうことをうかがわせる史料など存在しないのですから、純粋に信繫が小田原城に潜入したのはフィクションです、ということでよいのではないでしょうか。「可能性」について、論じること自体が無意味です。

 

 誰も信繫がフィクションの行動をしていることを批判しているのではないのです。そもそも信繫は、大坂の陣の前の事績はほとんど残っていませんし、残っていないということは、実際にはほとんど目立った活躍をしていないのでしょう。だから、信繫を主人公にして大河ドラマで史実通り書こうとしても、1年持ちません。それゆえ、大河ドラマで信繫を主人公にすると、信繫を無理矢理史実に絡ませ主人公補正をするというパターンの連続となるであろうことも、このドラマが始まる前からわかっていたことです。主人公補正自体が許せない人は、だいぶ前の段階でこのドラマはもう見ていないでしょう。今このドラマを見ている人は、この「主人公補正」自体は問題にしていないかと思います。

 

(2)だから、時代考証担当の先生の「信繫が北条への裏の使者黒田官兵衛が北条への表の使者」の説明通りのドラマ描写だったら、ここまで批判が強くならないでしょう。

 今回のドラマ描写の問題点は「黒田官兵衛が北条への表の使者」どころか、「そもそもこのドラマ世界には、黒田官兵衛は存在しない」という描写にしか見えないところです。いや、主人公に関係ない人物は別に出さなくてもよいです。通常であれば、信繫と官兵衛の接点はまったく無いに等しいので、別にこの大河ドラマに官兵衛が出てこなくても問題にはなりません。

 

 ところが、今回信繫をフィクションで小田原開城の裏の使者にしてしまったので、なかったはずの官兵衛との接点ができてしまいました。小田原開城の交渉で黒田官兵衛を出さないのは、やはり極めて不自然です。こうしたフィクションをやる以上、官兵衛を出さないのはおかしいのです。というか、今回、官兵衛は「出ていない」のではないです。誰も官兵衛について言及しないし、ナレーションですら触れられていない。どう見ても「このドラマ世界は、黒田官兵衛自体が存在しないファンタジー世界である」としか言いようがない描写なのです。

 

「出ていない」と「存在しない」とは大違いです。例えば、忍城の守将成田長親は、このドラマに全く出てこないし、名前すら出てきませんが、それでもこのドラマ世界に存在することは想像できます。このように「描写はされていないが、存在はするのだろう」というキャラクターはたくさんいます。

 しかし、このドラマ世界で黒田官兵衛が存在することは想像しようがありません。官兵衛が必ず絡むはずの小田原開城交渉で、全く顔も出さない、誰も彼のことを言及すらしない、というのは、このドラマ世界は、官兵衛がそもそも存在しない世界である、としか解釈しようがないのです。これがいかに異様なことか、と言おうと思いましたが、過去の大河ドラマの水準もこの程度だったような気もしなくはないので、まあ、本作も歴代駄作大河ドラマの列を連ねたという程度の話かもしれません。

 

3.NHKは、小田原開城の際に秀吉が降服の条件を反故にした、という描写を描くのが大好きですが、これなんか根拠になる史料(江戸時代の意図的に秀吉を貶める根拠レスの軍記物以外に)があるのでしょうか?ちょっと、ここまでデタラメ描写が多いと、ひとつひとつ疑ってしまいますし、おそらくこれもデタラメなのでしょう。

 

4.真田昌幸上杉景勝忍城攻めから小田原へワープして、氏政の説得にあたるのも、もちろんフィクションですが、どうでもいいです。

 

5.真田昌幸が、氏政の兜を使って、忍城の開城を交渉したのも、もちろんフィクションですが、どうでもいいです。

 

6.今回、最悪だったのは千利休の描写です。うーん、千利休が秀吉に北条との戦をけしかける一方、敵の北条に鉛(鉄砲の弾の原料)を密かに売った、というのはいかなる史料に基づくものなのでしょうか?これが千利休切腹の理由になるようですが、これが理由なら、罪状の一番に掲げられるでしょうから、これもおそらくデタラメなのだと思います。

 いや、新史料などあればいいのですよ。 それもなく、千利休のような史実上の人物をデタラメで貶めるのは、非常にまずいのではないでしょうか?(もし、新史料があるぞ、という方がいらっしゃいましたら、教えていただけると嬉しいです。)

 

千利休切腹の理由については、以下にまとめましたのでご覧ください。↓ 

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 以上、このドラマが史実に基づいていないデタラメなドラマであることを列挙しました。大河ドラマなんて元々フィクションばかりですから、わざわざ列挙する必要なんてないのでは、という意見もあるかもしれませんが、このドラマ、思い出したように時代考証担当の意見を聞くのか、時々妙に史実を反映した描写を描くこともあるので、それで「このドラマは史実準拠だ」と誤解する人がたまに出てきます。

 いや、このドラマはそんな史実準拠なドラマなんかじゃないよ、全編フィクションだよ、ということで書きました。たとえば、このドラマを根拠に歴史上の人物批評をするなんてことは本当にやめてほしいです。

 

※次回の感想です。↓

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