古上織蛍の日々の泡沫(うたかた)

歴史考察(戦国時代・三国志・関ヶ原合戦・石田三成等)、書評や、        日々思いついたことをつれづれに書きます。

大河ドラマ 『真田丸』 第36話 「勝負」 感想

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前回のエントリー

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今回の感想ですが、良かった点と悪かった点がありますので、書きます。

 

 まず、良かった点。

 

1.信幸の戸石城攻め(守る信繫)の「リアル戦芝居」の場面は非常に良かったです。特にその前段の内通者役を任される矢沢三十郎頼幸役をされた迫田孝也さんの熱演は非常に良かったでした。思わず頼幸の心情に感情移入してしまい、もらい泣きをしてしまいました。

 

 今回は第一部の戦芝居を伏線としていますが、この回は徳川の監視役もいますので、芝居といっても実際に鉄砲を撃ち合い、斬り合うという一歩間違えれば死者がでる「リアル戦芝居」です。このドラマは緊迫感があり、非常に良い場面となっています。

 

2.昌幸が久々に策士となっています。やはり、こういう昌幸をみたいのです。(結局不発に終わってしまいますが。)

 

 悪かった点ですが、以下の点です。

1.稲がいきなり変心して、沼田城で昌幸らを阻みます。いや、これは不自然なんで、やはり沼田城に稲は前からいて、夫の知らせにより、昌幸らを阻んだ、でいいんじゃないでしょうか?細かいことだと言われそうですが、これが通説なんですよ。細かく歴史改竄しているのは三谷氏の方なんです。これじゃ、稲姫が昌幸を騙したような形じゃないですか。

 稲が昌幸の入城を拒否する一方、近くの寺で孫と昌幸を会わせる気遣いを見せるという(私的には結構好きな)エピソードもこれで消えました。

 あのですね、細かいかもしれませんが、別に三谷氏がこういったエピソードを多分知らない訳じゃなくて「あえて」「意図的に」こういったエピソードにしていることが、なんなのかな、と思うのです。

(前回エントリーの関連記述・追記を再掲します。参考に願います。↓)

 

 稲が大坂にいて、この混乱時期に沼田に脱出したのかは不明です。(というか、その説ははじめて聞きました。)①内府違いの条々の家康弾劾のひとつに「家康が勝手に大名の家族の人質を返した」とあります。徳川の養女である稲姫がこの「家康が勝手に大名の家族の人質を返した」の中に入っていて、この時期より前に、沼田に返された可能性は大いにありえます。②あるいは、そのまま大坂に人質にいて、沼田城稲姫が待ち構え、昌幸が沼田城に入ろうとするのを邪魔するのは虚構とする説もあります。

 

 しかし、やはり沼田城稲姫エピソードはドラマ的に絵になるエピソードですので、ドラマ的には①の説の方がよいでしょう。

 

(平成28年10月30日追記)

 

 黒田基樹『シリーズ・実像迫る001 真田信繁』戎光祥出版、2016年 47ページには、「ここで良く取り上げられるのが、信幸の妻小松殿が、信幸留守中のため、昌幸らの入城を阻んだという逸話である。

 

 しかし、これも事実とは考えられない。というのは、小松殿はそれまで大坂の信幸屋敷にあって、このときは大坂方に人質にとられており、沼田城にはいなかったからである。大坂方は、七月十七日からただちにそれぞれの大坂屋敷にいた諸大名の妻子を人質として収容していっていた。そのときに昌幸の妻山之手殿(信幸・信繁母)と信繫の妻竹林院殿も大坂方に拘束されたものの、姻戚関係をもとに大谷吉継の屋敷に保護されており、信幸の妻小松殿も大坂方に確保されたことが知られれている(「真田家文書」信一八・四三四)。」

 

 とあります。やはり歴史研究では②の説の方が一般的なようですね。これに対して「①の説の方が正しい」とあえて反論するとしたら「真田家文書」には信幸の「妻」としか書いてなかったと思われますので、「ここでの「妻」とは清恩院(『真田丸』での「おこう」)のことだ!」とかぐらいですけど、妻というと普通は正室を指すのでやはり小松殿であるというのが自然ですので、やはり残念ですが、小松殿が信幸留守中のため、昌幸らの入城を阻んだエピソードはおそらくフィクションということになります。

 

 ただ、ドラマですのでやはりこのシーンがないと物足りませんので、ドラマでやること自体は良いとは思います。)

 

 

 

2.第二次上田合戦が雑ですね。これは、三谷氏の責任ではなく、要するにNHKに「予算がない」って事なんだと思います。いや、私も第二次上田合戦が数日しかなく、秀忠は家康の書状で関ヶ原に向かっていますので、さして大戦はなかったと思うんですけど、例えば時代考証担当の平山優氏の『真田三代』php新書、2011年には「徳川軍全軍が神川を渡河したのを確認した昌幸は、神川の塞ぎ止めを一気に切り落とさせ、さらに城郭に攻め寄せた敵に反撃を命じ、伏兵に蜂起を指示した。このため徳川軍は前方からは城方の弓矢、鉄砲と軍勢に、城門側面の林から出現した真田兵に側面を衝かれ、大混乱に陥った。さらに、虚空蔵山に伏せていた真田兵は、染屋原の秀忠本陣に襲いかかった。このため徳川軍の指揮命令系統は寸断され、周章狼狽した徳川方は小諸目指して算を乱して敗走を始めた。ところが神川は増水しており、真田軍の追撃を怖れて恐慌状態に陥っていた徳川軍の将兵達は多数溺死したという。」

 とあります。

 

 いや、もしかして2011年の時代考証担当の著作を覆す新史料があったのかもしれませんし、それならいいんですが(私は聞いたことがないのですが、素人なんで見逃しはあってもご容赦ください)多分ないと思うんですね。(あったら、それこそ別の時代考証担当の方が大宣伝しそう。)単純に、真田昌幸最大の最後の見せ場である第二次上田合戦をヘチョくするために、このような展開にしたとしか思えません。

 

 しかし、これを三谷氏の責任にするのは酷でしょう。上掲の資料を再現すると、ものすごい予算がかかるのは分かります。これから、大坂冬の陣、夏の陣、スルーするわけにはいかない、金のかかるシーンがあるのは分かっています。まあ、スルーするのはある意味仕方ありませんが、ここまで昌幸が貶められてきたのだから(予算とかはおいといて)「最後ぐらい見せ場を作ってくれよ」と思ってしまいます。

 

3.これが最大。関ヶ原合戦のスルー。これも三谷氏の責任では多分ないでしょう。NHKも予算がないんでしょう。しかし、悪いけど「NHKも落ちぶれたもんだな・・・・・・」としか言いようがないです。

 私も悪いです。「もう関ヶ原の戦いなんてスルーしろ!」と過去のエントリー(コメント欄)で書いています。これは、なんというか、NHKにはっぱを掛ける意味なんであって、まさかマジで本当にこんな重要なストーリーをスルーするとは思いませんでした。

 

 いや、もうこれが全てです。悪いけど、この時代の大河ドラマとして、関ヶ原の戦いが描けないなら、やはりおしまいです。責任としては、三谷氏よりNHKの責任者(プロデューサー?)の方が重いでしょうね。「斬新!」とかいってフォローしちゃ駄目ですよ。資金がないのが当然なインディペンデント映画とかとは違うんですから。

 

 でも、「金がない」でおしまいなんですかね?受信料って値下げになったことありましたっけ? 

 よく分からんのですが、今回の大河ドラマって、過去の歴代大河ドラマと比べて、そんなに予算がひっ迫しているんでしょうか?受信料は変わらないのに?(むしろBSとかで上がっているのに?)もしかして過去の大河ドラマを想い出の中で美化しているだけなのかもしれませんが、正直この大河ドラマは予算的に「みみっちい」と思います。(これは、脚本家の三谷氏の評価とは違います。)