古上織蛍の日々の泡沫(うたかた)

歴史考察(戦国時代・三国志・関ヶ原合戦・石田三成等)、書評や、        日々思いついたことをつれづれに書きます。

「緑色の眼の怪物」(green-eyed monster)

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村上春樹色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』、『緑色の獣』への言及があります。ご注意願います。

また、この記事は大分昔に途中まで書いたのですが、途中で何かどうでもよくなってきてしばらく放置しておいた記事です。まあくだらない記事ですが、たまにはくだらなくても(たまにはじゃないだろって?)良いかなと思ってアップしました。よろしければお読みください。よろしくお願いします。)

 

「緑色の眼の怪物」(green-eyed monster)という言葉があります。この言葉は「嫉妬」という意味です。語源はシェイクスピアの戯曲とのことです。詳細については、こちらのサイトhttp://www.ne.jp/asahi/wonder-island/wahhahha/engbg/greeneye.htmなどをご覧ください。

 

なぜ、この言葉の話をしたかというと前に、あるブログ(埋没地蔵の館(色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』のAmazonレビューで2万人以上が「参考になった」をつけたレビューを書かれたライターのドリー氏のブログです。以前彼のAmazonレビューの感想も書きましたので、よろしければこちらもご覧ください。))で、

読者から「Amazonレビューでドリー氏は、(つくるの着ている)オリーブグリーンのバスローブはクソ緑だと言っているが、オリーブグリーンは『嫉妬』の意味合いがあるんだから、ドリー氏の読み方は間違っている!」という内容のレビューへの反論があったというエントリーがあったからなんですね。

(ドリー氏の『埋没地蔵の館』の該当記事はこちら)→(http://yaplog.jp/akita0106/archive/280

(読者の方の反論記事はこちら)→(http://anond.hatelabo.jp/20130706024449

 で、私は「グリーンってそういう意味だったんだー」と素直に感心してしまいました。

 

だってですね。『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の該当部分をご覧ください。

 

「そしてオリーブグリーンのバスローブを着て(かつてガールフレンドが三十歳の誕生日にプレゼントしてくれたものだ)ベランダの椅子に座り、夜の風に吹かれながら、鈍くくぐもった街の騒音に耳を澄ませた。」

 

という数行の描写からグリーンに嫉妬の意味が込められているとしたら、以下のことが読み取れるわけです。

 

1 オリーブグリーンのバスローブは彼が選んで買ったものではありません。だから、このバスローブには贈った人間のメッセージが込められています。

ちなみに、細かいことですがこれはもらった物なのでオリーブグリーンのバスローブを着ているからといって彼のファッションセンスが悪いとはいえません。しかし、無頓着に人からもらった物だけ着ているような(確か実家にいる時は姉たちが選んだ服を着ていたはず)人間はファッションセンスにも疎いのかもしれませんが・・・・・・。

 

2 当時の彼女が誕生日にオリーブグリーンのバスローブをつくるに贈ったのは、「私は嫉妬しています」というメッセージでした。

 

3 彼女は誰に嫉妬していたのか?沙羅がつくるに「あなたに抱かれているとき、あなたはどこかによそにいるみたいに私には感じられた」と言ったように、つくるの心はどこかよそにあるように彼女には感じられたのでしょう。つくるの心は無意識のうちに未だにシロに残っているのです。それは、シロに対するつくるの思いがシロ個人に対する思いを超えて「失われた故郷への郷愁、ホームシック=ル・マル・デュ・ペイ」という象徴的な次元にまで高められているからです。シロは既に失われたものです。

 ちなみにプレゼントをもらった、つくるの30歳の誕生日の年はシロが殺された年です。(シロが殺されたのは5月、つくるの誕生日は11月なので既にシロは亡くなっています。しかし、当時つくるはそのことを知りませんが。)

 彼女が嫉妬したといっても浮気相手などではなく、「失われた故郷」という正体のないもの、既に失われたものには太刀打ちできません。やがて他の彼女と同じく「心がどこかよそにある」からっぽな多崎つくるに愛想を尽かして、彼女はつくるから離れていきます。

 

4 未だに別れた彼女のバスローブを使っているということは、その別れは修羅場になったとか険悪なものではなく、(つくるにとっては)穏やかなものだったのでしょう。しかし、鈍感つくる君は彼女の「嫉妬」のメッセージにも、なぜ彼女が彼から離れたかも理解することなく彼女と別れることになります。

 

5 最後につくるはオリーブグリーンのバスローブをまといますが、この時点でも自分が嫉妬しているという自覚はありません。しかし、オリーブグリーンのバスローブを着ることによって、無意識に彼が嫉妬の感情を抱いていることが暗示されます。(つくる自身が自覚していないので、この暗示が読者に伝わろうと伝わるまいとどちらでもよいと作者は考えているのだと思われます。)

 

 いや、わずか数行の描写でこれだけのことがメッセージとして盛り込まれているのですよ。村上春樹すげーわ、と思います。

 

ただ、ドリー氏は「そんなのつまらん、どうでもいい」と思うだろうし、多数の方が実際「どうでもええわ」と思うでしょうね。まあ、どうでもいいと言われたらその通りな感じもします・・・・・・。

 

ちなみに村上春樹氏は『緑色の獣』という短編も書いていますね。この話が「嫉妬」と関係しているかというと、うーんどっちなんでしょうね・・・・・・。そうであるとも、そうでないとも読めるような。緑色の獣は全身緑色でも目だけは普通の人間の目だそうです。でも色は書いていません。やはり目も緑色?

 

(ドリー氏がオリーブグリーンを「クソ緑」と言っていたのが面白かった(指摘されるまでつくるがオリーブグリーンのバスローブを着ているのは気が付きもしませんでした!)ので、前にパロディ小説を書きました。よろしければこちらもご覧くさだい。)